2012-04-28

苺狩り

まだ苺狩りに行ったことがなかった頃、
“苺狩り”というものを、
“苺食べ放題”と同じことだと思い込んでいたので、
「どうせ苺だけしか食べられないのならば、
 スーパーでおいしそうな苺をたくさん買い込んできたほうが、
 よっぽど安く食べられるだろう」
というのが、苺狩りに対する従来の評価だった。

 *

初めて苺狩りへ行ったのは2年前、
4月の初め、桜を見に行った時に、
なんとなくそのまま家に帰りたくなくなってしまって、
なんとなくそこに立ち寄った。

今年一番の甘い罠
そしてだ。
そういう無防備な心持ちで臨んでしまったばっかりに、
初めて食べる生っている苺の、あの、
濃く甘く、やわらかく、不恰好で生ぬるい、
まるで罠のような美味しさに、
あえなく引っかかってしまったのである。
何気なく読んだ推理小説『オリエント急行の殺人』に、
まんまと騙されてしまったときの、
あの心地よい“してやられた”感覚に、
今思うと似ているような気もする。
 
Before

 *

以来、苺狩りは、
すっかり我が家の年間行事として定着し、
今年で3回目になる。
春休みが終わり、世の中が少しおとなしくなり、
苺狩りの料金が下がったころを見計らって、
満を持していそいそと出掛ける。
 
自分でもたまに呆れてしまうのだが、
何せかねてよりの貧乏性なので、
“苺狩りの苺”の特別さにすっかり魅了はされつつも、
“食べ放題”という当初の理念を、
疎かにはできないようになっているらしい。
きちんと万全な体制(適度な空腹)で向かい、
After
30分の制限時間内に、
割り当てられたレーンの赤い苺を完食することを、
実はひそかな目標にしている。
 
今年もきっちりその目標を成し遂げ、
美味しい苺をたらふく食べた満足感と、
絶対に元は取った!という達成感の両方を得て、
無事に狩りを終えました。
(いくつ食べたのかは、教えてあげない。)
 
 *

何かと好きなことを見つけるたびに、
将来の店に連結させたがるふしのある妻が、
「庭に苺を植えて、苺狩りも出来るお店にしよう!」
などと、そろそろ言い出すのではないかと、
少し心配していないこともない。

  par  s.yoshitomo